菱山充恵先生(小学校・長岡京市)「お店見学」

菱山先生の思いはこうです。

「3年生では、2学期にお店について勉強するが、ぜスーパーマーケットが中心になっているのだろうと、いつも気になっていた。ショッピングモールや大きなスーパーマーケットができるたびに、『商店街はどうなるのだろう』という話を聞くが、その商店街や個人商店を無視して、スーパーだけを学校が教えていいのかと思った。」こういう思いから学年ぐるみの実践が始まりました。

 


 

「よく行くお店はどこかな」

「よく行く店をグラフにまとめよう」

―そしてスーパーの見学に出発。子どもたちは自分の目でいろんなことを観察してます。

「商品がぐちゃぐちゃになっていたら、すぐまたきれいに直している。」「お魚、パン、おそうざいなどのコーナーは、まどがあって作っているので、おいしく見せていると思いました。」

冷蔵庫や冷凍庫に入れてもらって「家のより大きい!」とびっくり。スーパーの仕事でたいへんなのは「商品を売り切ること」と気づきます。チラシを見て産地調べもしました。

 

 

総合の時間を使って、個人商店へ見学に行こう!

子どもたちは79人。8つの商店に分かれます。と、言ったってそのための準備がたいへん。菱山先生は、お店に依頼するときの苦労話や引率のドタバタを、リアルに楽しく語ります。

8つの中に石材店があります。若い先生が聞きます、「石材店なんかに行かせて何がおもしろいのですか?」これを聞いて菱山先生、「あのね、私の実家は石材店や!いろいろ学ぶことあんねん!」―この日の参加者、大爆笑。

 


美容室へ行った子は…

「失敗したらどうなるかは、お客さんにちゃんと伝えて、、その日を無料にする。どこで練習しているかというと、お店が終わってからとか、お客がいないときにマネキンを使って練習している。お客さんが多いのは朝と昼。うれしいと思うときは、お客さんが笑顔で帰っていくこと。」

 

この見学を全校集会で発表することになりました。ここでまた先生方の思いのちがいが出てきます。菱山先生も若いけどより若い先生が発表のためのシナリオを作り出します。シナリオに書かれた子どものセリフがどこかよそよそしく響きます。練習を重ね本番へ。「他の学年も見ているし、保護者も来るし」というのが若い先生の思いです。菱山先生は「子どもの発想でエエやん!」-こういう場面って、教師やってるとありますよね。みなさんはどう考えますか?

 


菱山先生の飾らない語りで、

子どもたちの様子や同僚の先生方とのやりとりが再現されました。中学校や高校の先生方にとっても、アハハと笑いながら、考えさせられる場面が多々ありました。やっぱり、歴教協のとれたての実践報告はおもしろい!と思いました。

 

参加者の意見交換も活気がありました。

Aさん「滋賀県のある市では、3・4年生の地域学習のための副読本を作っています。市内の小学校で使っているが、子どもたちにとっての身近な地域を取りあげる教材開発をしなくなっているのではないか。」

Bさん「昔は個人商店で買うのがあたりまえでした。子どもたちは、この授業で個人商店をはじめて知ったようです。個人商店の良さや苦労がわかったのでは。」

Cさん「教科書はスーパー中心ですが、ほんとにそれだけでいいのか。ネットの買い物も増えています。“ネットは便利だ”で終わりたくない。いいところもあるけど悪いところもあると考えさせたい。」

 


辻健司先生(中学校・京都市)

 「みんなで考えてみた、奈良時代はいい時代だったか?

                    ~歴史的思考力を育てる試み~」

定年退職のあと再任用で3年。

そして今年度は非常勤で1年生を担当。

授業だけの勤務で週7時間。生徒たちや同僚との関係がうすくなり、この3月で完全退職する辻先生。もう実践報告をすることもないとあきらめていたけれど、ふと思いついて昨年11月にやった2時間の授業の報告でした。

 

奈良時代までの学習が終わった次の時間です。

復習をしたあと、「奈良時代はいい時代でしたか?」と問いかけます。価値判断をさせるのです。誰にとってとかいつと比べてとか、あえて何もいわず問いかけ、自分の意見を書かせたうえで班討議をします(今風にいえばアクティブ・ラーニング)。

 「よくなかった、身分差別がひどい」「貴族の人からしたらいい時代だった、庶民にとってはよくなかった」「同じような意見の人がいて共感できた」という反応が返ってきました。

 


2時間目は、「一つ前の飛鳥時代と比べてみよう」と呼びかけます。

ヤマト王権内部の争いや奈良時代の稲作技術の発達(田植えの時期をずらしたり、品種を使い分けていたり)について説明。再「奈良時代はいい時代でしたか?」と問います。すると、「飛鳥時代と比べたらいい時代だった、けど貴族と庶民の差はすごい」という声が多くなりました。そして「視点を変えると歴史がちがって見える」「飛鳥時代と比べたら意見が変わった」という感想が返ってきました。

 

 先生は、歴史的思考力を次の3つの段階でとらえています。

 【第1段階】

(A)ある歴史的事象を現在の自分の立場や思いでとらえようとする

【第2段階】

 B)その時代のなかでとらえる。

 C)前の時代と比較して、変化やちがい、発展をとらえる。

 【第3段階】

 A)(B)(C)の思考作業を総合して、自分なりの意見を述べることができる。

 中学校では【第2段階】まではいきたいとしています。

 


結局、何をねらっているのかというと―

◎立場を変えたり前の時代と比べると、ちがった考えになることを感じさせたい。とりわけ(C)にあたる思考作業のトレーニングをさせたい。

◎こういうトレーニングを歴史学習の節目で何回かしていけば、歴史的思考力を育てるうえで効果があり、【第2段階】まで到達できるのではないか。

 2回にわたる言語活動によって思考力のトレーニングをしているので、生徒がどういう意見をもつかは問題にしないのです。自分の意見をもたせることが重要なので、どういう意見をもつか、意見の内容で優劣をつけるものではありません。

 

辻先生は、歴史教育者は歴史的思考力のトレーニングをする仕事もあるとします。その例として、安井俊夫先生が大学生を対象に、石橋湛山の小日本主義の論考を教材にして近代史の岐路を考えさせようとした実践を織り交ぜて報告しました。