12月例会

10月例会に続き、会場とオンラインのハイブリッド開催で、「誰でもできる社会科IT授業」を共通テーマとして、若手の濱野優貴先生(彦根東高校)と藤川瞭先生(立命館宇治中学校)に実践報告をいただきました。参加者は会場が8名、オンラインが1名でした。お忙しい中での参加、本当にありがとうございました!

報告1: 濱野 優貴(滋賀県立彦根東高等学校) 「世界史のいつもの授業で ICT を使ってみた」

濱野さんは世界史の授業に「知識構成型ジグソー法」という生徒同士の話し合いを重視した授業手法を取り入れ、その支援ツールとしてICTを活用されています。報告では、アフリカ史の授業実践を実際に授業で使用されている教材を提示しながら紹介してくださいました。

授業の流れは以下の通りです。

①授業の冒頭(STEP1)で「ウォルト・ディズニーの  “It’s a small world”のパビリオンでアフリカにはなぜ建物がないのか」という「問い」に対して思いつく予想を書いてもらう(1分程度・書けなくても構わない)。

②全員にABC3種の資料を提示し、各班で各自1つを分担して資料の内容や意味の理解を深める(STEP2 エキスパート活動 読む時間は78分)、

③班内で各生徒が「エキスパート活動」で理解した内容を順番に1分程度でほかの生徒に話し、聞く側はメモをとる(STEP3 ジグソー活動)。

④最初に提示された問いについてもう一度グループで話し合う(1分程度)。

⑤各自が自分のシートに自分の考えをまとめて書く(3分程度)。

濱野さんは、生徒が自分で記入したシートの①と⑤を見比べると、教え合いを通じた認識の深まりや成長が見えると話されました。また、①から⑤までの授業の流れはアナログで進められるのですが、最後に生徒にシートの⑤の部分を写メして送信してもらい、アプリを使って収集して、そのうちいくつかを選んで、次の授業で写真(右)のようにマーカーで印をつけ、モニターに示してフィードバックの解説をするのだそうです。

 「知識構成型ジグソー法」で進める授業は、生徒に大きな歴史の流れの理解を促し、歴史的思考力や論述の表現力を伸ばすうえで大いに効果があるとのことでした。しかし一方で、細かい知識を綿密に解説することは困難になるとも話され、その部分を生徒の自習に委ねるために、FormsQuizletなどのアプリを活用しているとのことで、その活用例を示されました。進学校であるがゆえに、英数国の課題が過重で自宅学習では世界史にまで手が回らない生徒たちも多いそうで、そういう生徒たちにとっては、登下校の電車の車中でも学習できるアプリの活用は効果的であるようだとも語られました。濱野さんが、ベーシックなところはアナログの良さを生かし、生徒が手書きでシートに記述することの良さ・大切さを生かしつつ、なかなか手が回りにくいフィードバックや自己学習の部分にICTを有効に活用されていることがよく伝わってくる報告でした。

報告2:藤川 瞭(立命館宇治中学校高等学校) 「授業のIT化の分類と可能性―「何をやりたいか」で選ぶ」

藤川さんは、冒頭で、授業のIT化を進めるうえでは、何がやりたいのかを考えてから、それを実現できるツールを探すことが大切と語られ、授業のIT化を以下の5つに分類されました。

⓪「資料提示」型、①「課題配布・提出」型、②「ライブ授業配信」型、③「教員の授業動画アップ」型、④「オンラインワークショップ」型。

それを前提に各型に応じて、授業準備のコツ、有益なツールの紹介、気をつけるべきことなどをわかりやすく語っていただきました。

 ①について藤川さんは、Googleフォーム の活用例を具体的に示され、一斉に配布して回収でき、なくすおそれがないというメリットがありつつも、在宅学習の補助の域を出るものではなく、生徒たちの共通理解を作り出すのが困難であるというデメリットがあると評価されました。

 ②のzoomなどによる「ライブ授業配信」型については、遠隔でも授業に参加できるメリットはあるが、生徒たちのモティベーションの差や空気感が伝わってこないというデメリットもあることは多くのみなさんが体験されていることかと思います。藤川さんは「パパパコメント」というツールを活用してライブ授業の画面に生徒たちが自由にコメントを書き込めるというスタイルの授業(ニコニコ動画のイメージ)を実践されているそうです。また、Googleドキュメントや jamboardといったアプリを活用すれば、オンラインライブ授業中に生徒たちにグループワーク(共同作業)をしてもらうことも可能であるとの実践例も紹介してくださりました。

 ③「教員の授業動画アップ」型の場合は、YouTubeを活用されている例が多く、遠隔授業、オンデマンド授業や反転授業に応用できる点では有効ではあるが、編集の労力と時間が膨大であることと、視聴する生徒にとっては、長時間見ることが困難であるというデメリットがあります。そこで、藤川さんはいま、④「オンラインワークショップ」型により、遠隔であっても双方向の参加型授業を実践できないかと試みておられるとのことでした。ただ、まだ使えるツールが少ないことと、リアルな場の空気感を感じることが困難であるなどのデメリットもあると話されました。

 報告の後半では、以上を前提にして、藤川さんが取り組まれた授業の実践例を語っていただきました。中3の社会科では対面授業にGoogleフォームを活用し、授業プリントにQRコードを貼り付けることによって、生徒が簡単にアクセスして意見を送信できるように工夫されています。授業に対して自分の意見が送信できることについては、生徒たちにも好評であるとのことでした。また、授業プリントのテンプレートを生徒に提供して、生徒自身に授業プリントを作らせるという試みや、課題としてラジオ番組を作らせるなど、創意工夫に満ちた教育実践の一端をとてもわかりやすく紹介してくださりました。

参加者の感想

Google Formsに寄せられた参加者の感想(掲載可のみ)を書き込み順にご紹介します。

 *お名前のない感想は匿名希望です。

◆感想

今回夏以来2回目という形で参加させていただき、誠にありがとうございました。自分自身、今のICT教育についていけているのか不安が大きかったのですが、皆さん手探りで生徒と築き上げていく形だったので、私も色々と今回の話を参考に挑戦していこうと思います。 またの機会がありましたら、よろしくお願いします。

◆感想 濱野 優貴(滋賀県立彦根東高等学校)

 画面とPCの接続が不安定でご迷惑をおかけしました。

実際の添削の動画などお見せ出来たら・・・と思っていましたが叶いませんでした。また機会があればそういうこともできればと思います。

ICTの活用は色々とやりようはあると思いますが、「学び方の変革」「学校の変革」を基礎としないとうまくいかないと考えています。例えば、教員による解説中心の学びから、知識を自分で調べて学び、まとめて交流して得ていく学びへ。教員のほうが生徒より何事にも「詳しい」存在から、デジタルネイティブ世代の生徒からむしろ学び、彼らの裁量を広く認める組織へ。そういう学校や学び方そのものの変革であると、ICT活用をとらえることで、意味のある活用となると思います。

その一方で、家庭学習や休日の過ごし方までテクノロジーを駆使して管理しようとする学校も出ているようです。ICTは人々の不便や面倒を解消し、想像と創造を自由にできる大きな可能性を持つ反面、使い方を間違えれば監視社会を強化してしまいます。授業とは反れますが、これからの子どもたちは「ICTの上手い使い方」をまさしく学校で学ぶことになります。学校が彼らをICTを用いて管理しようと強化すれば、大人になった彼らはそういう使い方をし、そういう社会を作ってしまうでしょう。

私が好きなMr.Childrenの「Everything is made from a dream」という曲に「厄介だな 夢は良くもあり悪くもある 僕らの手にかかってたりして」という歌詞があります。まさに、ICTを使って生徒を自由にするのか、そうでないのか。まわりまわって社会を自由にするのか、そうでないのか。我々教員にかかっているのだと思います。

◆感想

コンピューターと授業のいろいろな工夫・使用法がとても参考になりました。

◆感想  藤川 瞭(立命館宇治中学校高等学校)

 たくさん参加していただくのに越したことはありませんがこれくらいの人数だと一人一人の感想をたくさん聞けますね。どのあたりの人数からが満足度が下がるのかまた、対面・ハイブリッド・完全オンラインどうなのか。このデータをとって分析するのも、ある意味ICT教育や研究会の在り方を考える際に貴重なデータになりそうな気がします。
 個人的にはこの形式のハイブリッドスタイルはよいなと思いました。(途中画面共有うまくいかずすいませんでした)

◆感想 家長 隆(大学非常勤講師)

現場の課題に応じた実践的内容で良かったと思います。今回は二人の内容が補う面もありましたが、異なったテーマなら二人で3時間は欲しいところでした。

◆感想  町田 研一(立命館宇治中学校高等学校)

若手教員2人によるICT授業の実践報告はとても刺激的で学びの多いものでした。

 濱野先生の実践報告で特に印象に残っているのが、授業ごとに生徒が書く記述問題の提出方法をアナログとデジタルのハイブリッドにしていることです。私も普段の授業で毎回簡単なレポートを生徒に書かせているのですが、回収が非常に手間なので、生徒にスマホかパソコンで回答を打たせて、classiという授業連絡ソフトを使用して回収しています。しかし、「タイプ打ちした知識が果たして生徒の中にどれだけ残るのか?」「手で書いた方がいいのではないか?」という疑問は常に抱いていました。そこをスマホのカメラ機能を使用してあっさり乗り越えていった濱野先生!さすがデジタルネイティブです。

 デジタルネイティブと言えば、よくICT教育を導入する際に、生徒がゲームで遊んだり、You Tubeを勝手に見ることを恐れるあまり学校側が様々な制限を生徒の使用機器にあらかじめかけておく例を耳にしますが、デジタルネイティブの生徒はそんな制限を軽々と越えていきます。それならば、むしろ最初から制限を取っ払って自由に使わせた方が、教員の思いつかないようなすばらしい方法を見せてくれるのではないでしょうか。その方が授業にとっては有益だと思います。ただし、生徒が犯罪に巻き込まれないよう情報リテラシーの事前学習は念入りにしておく必要がありますが。

 藤川先生は同じ学校に勤めているので、生徒にとても慕われている場面をたびたび見かけていました。そんな藤川先生の実践報告で特に印象に残っているのが、授業実践すべてに生かされている生徒目線にとても近い藤川先生の視点です。例えば、授業用のパワーポイントにいつでも使えるよう藤川先生が常時パワポで作りためているネタ帳のネタには最近はやりの歌やアニメがふんだんに盛り込まれて、授業内容の印象付けに一役買っています。また、そうして作られたネタを通常ならば授業の冒頭でつかみに使用したくなるところですが、藤川先生は授業の中間地点で生徒の息抜きに使用しています。これはまるでTVCMのようだと感じました。現代の生徒はTVに慣れているため、CMCMの間の15分しか集中が持たないという教育界の噂は教員ならば誰しも一度は耳にしたことがあると思いますが、藤川先生の実践はまさにそこを逆手にとって、生徒へ授業内容を印象付けることに成功しているのです。

 最後に、「ICTの使用は目的ではなく、あくまで手段である」という戒めが教育界でよく言われますが、お二人の授業実践はまさにこの言葉をさらっと実行しているように感じました。結局この戒めはデジタルネイティブではない教員が授業で無理にICTを使おうとしている場合にしか当てはまらないのかもしれません。だとすると、この言葉はまもなく消えていく運命なのだと思いました。