2月例会

2月19日(土)16:00~17:30 オンライン

テーマ 新しい地理授業

報告① 砂川真璃さん(立命館宇治中学校・立命館大学教職大学院)

「SDGsを思考ツールとして活用した地理学習」

 中1の地理、中3の歴史と公民を担当。今年度は、午前は宇治で授業、午後は二条で14:40から大学院教職研究科で授業を受け、20:00まで勉強。ゆっくり学べるのが久しぶりで、楽しいなと思いながら、久しぶりに授業を受ける側になり生徒の側の気持ちを思い出しながら勉強。今回の報告は、2020年度、日本私学教育研究所の委託研究員として授業をしたもの。今ではSDGsと関連させて授業をしている先生方も多いので、特に新しいものではありません。 

 SDGsを地理学習で取り入れていこうと思った背景は、2020年時点では、SDGsを生徒はあまり知らず、アンケートをしたら、7割程度がSDGsを知らない状態。SDGsの達成のためには一人ひとりの意識の変革が必要で、これからの時代を創っていく子どもたちが知っている必要があると感じていました。社会の出来事を自分ごとにできるようにと感じたのがこの授業をつくったきっかけ。SDGs自体とか国際機関の知識を伝えたいと思ったわけではなく、今後、社会に出た時に生徒自身が世界の問題をとらえられるように、そのものさしとしてSDGsを活用できたらいいなと。授業の中でSDGs自体の説明はあまり詳しくしていなくて、このアイコンを何度も使いながら世界の問題を捉えなおしてみるという活動をしていきました。このアイコンが有名で、とても使いやすいなと思います。世界で起こって問題は様々なものが組み合わさっていてごちゃごちゃになってしまっているので、どれを問題としてとらえたらいいのか、解決していったらいいのかが見えにくい、自分とのつながりを感じにくいと思っていました。アイコンのどれにあてはまるのかと分解して問題を考えていくことで、自分との問題、自分自身とのつながりを感じられていくのではないかと思いました。

ワークシートの活用

 中学1年生を対象に単元としては「世界各地の人々の生活と環境」、「世界の諸地域」。SDGsを用いて生徒自身が世界の問題を考えていけるように目指しました。世界の諸地域の問題を考える際にSDGsをツールとして用いたワークシートを何度も繰り返し練習しました。ワークシートの記入の内容は5項目。

①ある出来事を見て問題だと感じたことをテーマとし、授業で映像資料や新聞記事を提示し、生徒自身がそれの何が問題なのかを探す。こちらから1つの問題を提示するのではなく、ワークシートに書き込む。

②その問題がSDGsのアイコンのどれにあてはまるのかを選択する。

③自分が問題だと感じたものを教科書や資料集、タブレットで調べて現状を記入。

④その問題はなぜ起こっているのか?を原因として考える。

⑤問題が解決しなかったらあるいは解決しなければ、悪化したらどんな問題が生じてくるのかを記入。

 はじめは個人で考える時間をとり、4人のグループワークで。コロナ禍になっていたので、ペアワークになることも。

1.「バナナはどこから?」の授業

 東南アジア地域を取り扱ったとき、バナナを中心にテーマ設定。

 1・2時間目はバナナを通した学習知識を伝えることも。バナナの問題を知る。バナナの事を知るために教科書や資料集から熱帯地域の文化や生活を学ぶ。3時間目はDVD「甘いバナナの苦い現実」を視聴、フィリピンの様子を見ながらどこが問題かを探す。熱帯地域の生活を知る。日本人が食べている果物はバナナで、初めの活動としてバナナの生産国の表を見ながら世界地図にどこに位置するかを確認。熱帯の地域、赤道付近に固まっていることに気づく。「海に近いところ」という意見も。日本のバナナの輸入先の表を見て、生産の多い国と比べたときにどんな違いがあるのかをグループで話し合う。インド、中国、インドネシア、ブラジル…ですが、日本ではフィリピンから多く輸入しているのはなぜかという事を考える。生徒から出てきた意見としては、「インド、中国、インドネシアは人口が多いので、国内で消費してしまうから、輸出に回す分がないのでは」というところまで考えられている生徒も。地理的な近さ。日本に輸出するのであれば、高品質であることもいるのではないかと。フィリピンでは日本に安くバナナを輸出するため、大量生産、プランテーション農業。大量生産するために農薬の散布が必要。手作業でおこなうと人件費がかかるので、飛行機で農薬を散布する様子も。農薬がかかってしまう地域に住んでいる、汚染されている様子があげられているので、どこが問題かを考えた。ほかのところでも、バナナを生産している会社に勤めるフィリピン人の意見ものっていたので、そこの関係性、そこの地域の人々と会社、その対立軸を問題ととらえている生徒も。4時間目は問題分析、解決方法の考察。農薬散布を問題ととらえていて、原因のところで、フィリピンのバナナ栽培の問題は、より質のいいバナナをつくるというのは、日本人がより質のいいバナナでないと買わないためこの問題が起こってるのではないかなと。ここを深めていくことで自分自身の問題として捉えられるようになっていったのではないかと。世界の問題は自分自身につながっているところがあるなと。意図的におこなっていなくても自分の行動がもしかしたら世界の問題としてつながっていると最後に伝えました。

最後に課題として、実際にスーパーに行って(インターネットで調べてもOK)、どこのバナナが多いのか、値段も調べる。すごく熱心に調べてくれ、生徒が持ってきた資料をもとに、どうやって値段が決まっているのだろう、安く売られているバナナがあるということは、つくっている人はどんな状態なんだろうという話にもっていきました。

生徒の変化

  このDVDを見た後、ワークシートを使いながらグループワーク、ペアワークをしました。今まで知識中心のグループワークだと、自信のない生徒はワークの中に入れませんでしたが、今回ワークシートを使うと自分自身の思いを自由に話せるからか、今まで以上に活気のあるグループワークに。このワークシートを使ってワークを重ねるごとに生徒たちの話し合いの内容も変わってきて、最初はSDGsのどれにあてはまるのかなということに時間をかけていましたが何度もやっているうちに、SDGsのアイコンはさっと選べて、そのあと、原因って何だろうというところを深く話し合ってくれる時間が増えました。そのあと派生する問題を話し合っているうちに、SDGsのアイコンをもう1個増やした方がいいかなとか、議論の仕方や考え方も変わってきました。

2.「海洋プラスティック」の授業

 海洋プラスティックを通して世界の海や海流について中1で伝えるところ。海洋プラスティックについて最終的に自分たちでポスターを作って行動を変えていこうというところを最終的な目標と設定。ワークシートに記入しながら何が原因なのかを分析してもらい、それを解決していくためにポスターをつくってもらって行動を変えていく。1人ずつタブレットを持っていて、Meta-moji(メタモジ)というインターネット上での学習ツールを使い、ほかの生徒が書いているのを見ながら友だちがつくったものを見ながら書くことができたりインターネット上の画像を持ってきたりでき、プロジェクタで生徒が書いたものを映して全員で発表して共有するときにも便利でした。時間があったクラスはポスターの投票も。投票で上位だったものを教室の横にポスターを大きく印刷して掲示したり、ごみ箱の近くに貼ったり。SDGsの授業をおこなったあとの生徒たちの感想は、「世界の問題の解決は自分に関係のないことではない」「自分自身も世界の一員なので意識して行動していきたい」などが多く、「アイコンを使うことで世界の問題がわかりやすくなりました」「SDGsがあることで、世界の問題をまとめやすくなりました」なども。 

 委託研究でもあったので、授業の前と後で5点法のアンケートを取り、授業の効果があったと思われるものが「SDGsって大切だな」と書いていた生徒が多く、「世界をよりよくするために自分にできることがあると思う。やっぱり日常生活の中で世界のことを意識して行動することがある」と自分と世界のつながりを感じてくれた生徒も。

授業を振り返って

 地理を担当すると、覚えることが多く、楽しいと感じられないような授業をしてしまっていたように感じています。今回、グループワークをしたり、問題を考えて自分とのつながりを考えたりすることで楽しいと感じてくれた生徒も多くいました。順序立てて考えたりSDGsを活用すること、うまく思考法を使ったりすることで問題をよりよくわかりやすくなるということも伝わったかなと思っています。大学院では、国際教育コースに所属していて、グローバルシティズンシップという授業の中で紹介していただいた文献で、『世界はシステムで動く』というシステム思考の考え方。これを聞いた時に、私の地理の授業実践でこの視点が足りなかったのではないかと、はっとさせられました。システム思考というのは、1つのものごとをとらえるのではなくて、物事はシステムの中で起こっているので、システム全体をとらえる視点が必要。本の中からの引用で「自然や社会のシステムはこのようにさまざまなものが複雑につながり合っているのに、その一部だけを取り出して考えると、期待した効果が生まれないばかりか、新たな問題を生み出すこともある」この部分は、地域ごとに絞って授業をおこなってしまっていたので、全体が見えなくなってしまっていたのではないか、ということを感じました。「目の前の出来事がどのような大きな趨勢の一角なのか」できごとは原因とか対面上に出ていない部分に目を向ける必要があるのに、出来事だけに目を向けてしまっていたのではないかというのが私の反省点。単元の最後に今までいろいろな問題を地域ごとに見て来たけど、問題どうしはどんなつながりがあったのか、マッピングをしたり、その問題が起こる背景としてどのようなことがあったのかということをもっと強調して勉強していく必要があると。当たり前になっていることが問題を引き起こしているかもしれないので、社会のあり方自体を問い直せるようなしくみが必要なのではないかと感じるようになりました。

 中1で地理ができたらここを改善して授業をおこなっていきたいと思っています。ユネスコがグローバルシティズンシップ教育の目標を定めていて、個別の知識を教えるのではなく、学習者が現実の問題を批判的に分析し、創造的革新的な解決策を考えることを促す。知識は考える上では必要なのですが批判的に分析したり、解決策を考えたりすること、これは地理とつながりやすいのではないかと。ここもすごく大切にしたいなと感じるところで、主流の前提、世界観、勢力関係を再考し、制度的に十分に意見が反映されず軽んじられている人々について考慮するよう支援する。ここのところ、世界の当たり前になってきてしまっていること自体に目を向けなおして、それによって不利益を被っている人々について考えられるような授業がおこなえたらなと思っています。

例会での質疑応答

Q.プラスティックのポスターを作成してから、生徒のごみの分別とか変わったことは?

A.実際のところはわかりません。私がいるからわざと「これやで、これやで」と冗談っぽく、ごみを捨てている。

Q.システム思考に関連してバナナの授業で安いのはなぜ?そこからつなげて日本人は見た目重視なのかとか十分やれていたと思う。どこが足りなかったのか、今、授業をやるとしたら何を足されますか?

A.バナナで終わってしまった。もっと他のものでも、安いファストファッション、カカオ豆、他のところとのつながりができたのかも。DVDの中で、バナナの製造会社が生徒にとっては悪者になっていた感じ。実際にはそうではないので、もっと説明できたらよかった。安い物ばかり求めてしまう社会の在り方、安いものを求めてしまう社会の在り方をもっと説明できたらなと。

質問者から中学はそこまでで十分。高校に引き継いでいただけたら。

Q.総合学習でポスターをつくって自分ごとにしていくというようなやり方は、小中高と日本の学校の伝統的なやり方。自分ごとにしていくスウェーデンの有名な女性(グレタ・トゥンベリさん)もいるが、行動するヨーロッパの人たちとどこが違うのかなと思う。何が違うのか。大学生でも自分事で終わっちゃう。

A.行動するというところまで持って行くのは難しい。日本とヨーロッパの若者とでそんなに違わないと思う。大学の時、3か月フランスに留学していた。政治関係についてはよく話をしている印象がある。カフェで政治の話を普通にしている。日本はあまり政治の話は友だちどうしてしないが。友だちどうしでよびかけあって行動している。

参加者から授業ではディスカッションしているが、その話を周りの友だちどうしでできるか?って聞くと「とってもしづらい」と。「何でできないの?」「きっかけがない」浮いちゃう。生協の学生委員会の平和班で舞鶴に行った。見てきたことを周りに言うかと言えば言わない。大学の茨木キャンパスは文科系、人文科学系のサークルがなくて、みんな踊っている。踊っているかスポーツしている。授業でフィールドワークして、友だちどうしでしゃべれるかと聞くと、友だちどうしでしゃべるのは壁があるとのこと。

感想仲間づくりがキーワードになる。家であまり政治の話をしていないのでは?生徒会活動が弱い気がする。そこで自信をつけたら社会でも行動できる。

Q.海洋プラスティックの問題で、どの程度関心を持っていたのか、どの程度現状について知っているのか?アクリルたわしも海洋プラスティック、そう知ってから使わないようになった。どの程度、生徒の意識が変わったのか? 

A.中1なので、プラスティックって何?から始まる。「今から5分間、自分の周りにあるプラスティックを探してみよう」ってやるが、何がプラスティックなのか?という全然わからない状態。ストローとかビニール袋くらいしかわからない。基礎的なところから入らないといけないのが実状。

②川西宏和さん(京都産業大学附属高校)

「『地理総合』構想中!」

「『地理総合』構想中!」とありますが、ほぼ妄想中に近いですね。地理総合をこんな風にできたらいいなということを報告します。さっきの砂川さんの報告のように、バナナの生産地を熱帯ということだけでなく、「海岸の近く」という答えを引き出せるようなやりとりはおもしろいなと。なんで生徒が「海」と出してきたのかを聞いたら、輸出との関係が見えてきたらおもしろいな。授業のあり方、問いを大事にしながらやるのが大切だなと痛感。政治のことを普通に語っているフランスの学生と語れない日本の学生の違いがあるという砂川さんの分析は正しいなと。これも地理の課題かなということを考えさせられました。

1年に地理総合を置きたかったのですが、かなわなかったので、来年度は、1年生は歴史総合だけ。コース制をしいていて、多くの生徒が行く社会科学系人文科学系は1年歴史総合、2年地理総合、公共が必修、1年で歴史総合をとったら2年で日本史探究か世界史探究かを選択、3年で日本史探究、世界史探究、地理探究(各4単位)の中から2つ選ぶ。政治経済は今でも必修4単位でやっている。理工系の学部へ進む生徒は必修だけになる。1/3くらいの生徒は他大学受験で、1年は歴史総合、2・3年は日本史探究、世界史探究のいずれかを選ぶ。地理総合は来年度ではなく再来年度なので、教科書もまだ採択していない。地理担当は私ともう一人30代の2人しかいないので、他の日本史や世界史の先生にも地理総合を担当してもらうことになる。どう教えていくか研究を進めている段階。今、帝国書院の地理Aを使っているので、それに近い帝国書院の地理総合の教科書で年間の指導計画を作ってあります。

 

①技能的なもので、地図、GISを使いながら地図に親しむ②自然環境や社会環境を含めて世界各地の生活や文化を学ぶ③地域の課題、防災、生活圏の諸課題を考えるの3つを年間学習させることになる。評価の問題も考えていかないと。地理総合は6つの教科書が採択されていて、目を通しています。

地理を教えるスタンス

 第一学習社の「はじめに」にあたる「地理総合を学ぶにあたって」が結構いいなと思いました。有名なユネスコ憲章「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない。相互の風習と生活を知らないことは、人類の歴史を通じて世界の諸人民の間に疑惑と不信をおこした共通の原因であり、この疑惑と不信のために、諸人民の不一致があまりにもしばしば戦争となった。」と、歴史を振り返り、地理を学ぶ意味合いの1つをここにおいているということは非常に大事。昨今の国際状況を見ていると原点におくべきところとして非常に大事なことをいっている。後半には「重い目的」という風に書いてある。地理の勉強というのは世界各地の多彩な文化、地球の壮大さ美しさにひかれて人々は旅をしてきた。それでもっていろんな世界を知って来た。地理を学ぶことが旅へのいざないとなり、今後、高校生たちが世界各地を自由に旅ができるようになることに役に立てたい。それが結果として世界の平和につながっていくのではないか、こういうスタンスは地理総合を考えていく上で非常に大事。

5つの視点

 どの教科書にも共通しているのは、地理的な見方、考え方。新指導要領では資質・能力を育成するため歴史やったら歴史的な見方、考え方をはたらかせる、地理は地理的な見方、考え方をはたらかせるということを強調されている。東京書籍の地理総合の教科書は冒頭で5つ(位置や分布、場所、人々の暮らしと自然環境との関係、結び付き、地域)の視点でイラストを載せてある。特に2つ目の世界各地の生活や文化を国際理解的に考えていくときに5つの視点で考えていく、問いを出していく、地理的にものを見ていく視点として、大事。これは使えるなと思って。どの教科書にも触れてあるが、これが一番わかりやすい。

 旅をテーマに考えると、例年5月に世界の国といかにつながっているのかということを考える題材として、交通や通信、観光を例にあげて、国と国の結びつき、人と人のつながりを考えるので1時間の授業で観光をテーマに新しい教科書でシミュレーションしてみた。歴史総合では、冒頭に「歴史と私たち」というところで、身近なところから歴史を考えるということで、世界とつながる旅行の歴史、近代化と歴史の話。観光や旅を取り上げている。いろんな事象を世界のつながりは交通通信でやろうが交通、観光で考えようがどれでもよい。地理総合だけでなく歴史総合の教科書でも旅行や旅をテーマにして観光や旅を身近な題材として取り上げている。コロナ禍で観光がたいへんな時期なので、題材としてはどれでもよいのでは。

 

 19921215日の私の写真は初めて飛行機に乗ったときのもの。奄美大島の上空を飛んでいるところで飛行機のコックピットにいる。高所恐怖症で飛行機に乗るのがいやで沖縄修学旅行でどうしても行かなあかんかったので、仕方なく飛行機に。30年前にはコックピットでパイロットといっしょに記念撮影をさせてもらえた。今ではありえない。

観光のグローバル化の授業

 地理は読み解きが大事。金閣寺道のバス停にあるパネル。ある教科書ではこれと同じような写真が載っている。コロナ禍前は、秋の観光シーズンの頃は外国人観光客でいっぱいで、バスに乗れなかった。5つの視点にたって読み解いていく。この写真から読み解いていくときも5つの視点でどんな会話をしているのかな~と。どこなのか、どのような特徴のある場所なのかと読み解いていく。観光をめぐっては、教科書では触れられていませんが、京都にとってはオーバーツーリズムの問題は結構深刻。身近な地域を考えるとこういうこともある、どうしたらいいのかなと考えたり、日本だけでなく外国にもあるということで比較できたりしたらいいかな。大きなテーマは、どのように観光のグローバル化が進んできたかですが、地図や資料から考えていく。重視したいのは、読み解きの過程の中で自分なりの問いを生徒が自由にどんどん出していってくれたらいいかなと。さっきの砂川先生のバナナの授業で「熱帯」だけでなく、こちらが想定していない「海」も出てくるような問いをどんどん出してもらえたらいいな。グローバル化が進んでいるのを地図から読み取らせる、観光客の多い国はどこか(読み解き)、これがわかっただけではだめで、なぜこれらの国なのかということを生徒が問いで出してくれたらいいな。読み取りだけではだめ、確認だけで終わってしまう。なんでこういうことになっているのか、5つの視点をはたらかせ自分で問いがどんどん出てくるような授業展開になればいいかなと。問いばっかり出していって、答えは何?教師側もどうまとめたらいいの?となるが、そこから脱却しなければならない。生徒がいろいろな視点で問いを出してくるようなことを歓迎して新しい科目としての地理総合にしていけたら。1時間の授業の中で観光が多様化している(読み解きというよりは教えていく)、グリーンツーリズムやエコツーリズムなど新しい形の観光が生まれていることを学びますが、研修旅行がコロナで中止になっていて、語る部分があってもいいかなと。教科書では多様化する観光を考えさせた結果、身近な地域を観光の視点から見て、観光資源を発掘していこうという項目が「より深い学び」として出てくる。地域の資源の掘り起こしは、人々が暮らしている地域の中で結果として観光資源になるものがある。最近気になっていることでは、佐渡の金山の世界遺産登録をめぐり、歴史の問題になっていてこの国はどうなっているのかと思ってしまう。観光を取り上げるのがおもしろいと思ったのかは、地理総合の教科書の最後のテーマ(生活圏の調査)で、防災教育になってしまう、防災訓練みたいになってしまう可能性がある。地域・生活圏を調べていく上では防災教育はやったらよいが、小中高のどの段階で何をやったらよいかを考えないと、防災の心構えばっかり小中高でやっても意味がない。生活圏の課題を考えるのが大事。地域がかかえる生活圏の課題を調べようと出てくる。特に京都の場合は観光の面で困っている。5月に観光について触れておいて、最後の段階で調査する生徒がいたらいいなと。

例会での質疑応答

Q.学校のIT環境は?ChoromBookは必須それとも貸与?生徒の意見や疑問を集約するアプリは?

A.1、2年生が全員ChoromBookを持っている。地理総合では、地図の扱いとGISを学ぶので、4月にChoromBookを使うことになるかな。地理院地図、政府の統計サイトを使う。生徒の意見を集約するアプリなどはまだ使えていない。

Q.「相互依存」という言葉は地理では普通に使う言葉なのか?相互依存は支配と従属と相互依存を対立的に使っているのではないかと思った。人間と自然環境との相互依存。地域どうし、国どうしの相互依存関係。相互依存というのはどちらかが強くなった時の依存関係というのは脆弱性も兼ね備えている。地理では普通に使う言葉なのか?

A.従来から学習指導要領にも書いてあったと思う。5つの視点が出てくる。依存関係の中では、対等な依存関係ではない。自然と人間生活との関係の中で環境決定論なのか、環境可能論なのか論争されてきた。普通に使っている。

質問者からこの言葉を使うと、現状肯定的で、批判的な見解をどうやって育てるのかなと思ったもので。

Q.小学校の学習に入る機会が増えてきて、綿から糸をとることを練習している。地域に根差してやっていると、観光関係以外のものがあり、都会の方々が喜んで京阪神から1時間半のところで来てくれるネタがいっぱいある。学校教育以外で何ができるかを考えて来た。丹波という地域が都を支えてきたところ、祇園祭を支えてきたし、大人でも楽しめる話題がいっぱいある。高校の方から研修に来てもらえたらありがたい。

参加者から今やっていることもやりたいし、防災ももっと詳しくやりたいし、SDGsももっと詳しくやるとなると、とても2単位ではできない。構想がすすんでいなくて妄想どころか、まだ考えられていない状態。

Q。地理総合が必修になると、地理探究の履修者も増え、大学受験も地理を選択するのが増えるのでは?

A.増えてくれたらと思うが。地理学関係の学会をあげての必修化なので。

参加者から大学の地理を教える先生の確保がたいへん。地理に触れる生徒が増える。歴史総合も地理総合も大学入学共通テストのサンプル問題を見せてもらったが、どちらも一筋縄ではいかん。総合的な思考力が必要な問題になっていて、防災やSDGsをやってきた生徒が入ってくると、特に政策科学部としては期待している。

Q.コロナ禍で観光依存の弊害が気になった。生徒に地域振興や地域おこしをワークさせると観光が出てくる。観光依存したことによる被害が京都ではスゴイ出た。そういった視点は地理総合の教科書では出てくるのか?

A.教科書に書いていようが書いていまいが、大事な視点。暮らしている視点から弊害を感じて発言できたらいいな。

Q.主体的に学習に取り組む態度の部分の評価は?

A.指導要領の解説の中身では数字で評価できない部分があるのでどう評価するのか?日常の会話の中で激励するような意味合いでの評価。中間・期末テストをベースに評価をつけていて、中学までは観点別評価。文科省がいう評価の仕方がよいのかどうかわからないが、3つの観点で評価して数値化して成績をつけることになるが、悩んでいるところで全然まだ考えられていません。

Q.主体的学習の態度については中学ではどうですか?

A.中学では、すごく難しい。今できていることはノートチェックのときに、右ページに「新たな疑問」を付け加え、生徒自身が+αで調べていたり考えていたりできているかを評価項目としている。今まではノートチェックで授業で取り組んだワークができているか、板書ができているかを評価していたが、観点3を入れることで新たな疑問や自分自身で考えたことが書けているかで評価している。プレゼンをしたときの評価をしている。「新たな疑問」について、自分自身の疑問ではなくまじめな子は、ネットで調べて書いてそれを書いたらできてしまうので、それが主体的に学ぶ態度か?と思ってしまう。

Q.附属中があるおかげで、中学が先行実施しているので、高校の先生が中学の先生から学んでいる状態。見えてきたのは、学力が弱い子がいい評価にならないか?

A.やさしく評価をつけることになる。書けていたら点数をあげられる。テストの点数が悪くてもよい評価に。

Q.防災に関して、地層の問題やハザードマップは学習しているのか?

A.現行の教育課程でも出ているし地理総合でもより重視されている。ハザードマップは必ず取り上げている。土地の様子の問題はネットとかを活用しながら見える。従来は紙の地図がないと見えなかったが、今昔マップでは100年間くらいの移り変わりもわかる。旧河道だったとか土地の様子も比較できる。地理院地図を使えば詳しく見える。

 

参加者より観点別評価は非常に悩ましい。主体的に取り組む態度というのは、簡単にいうと積極的に手を挙げるとか、提出物を積極的に出すとかというのは生活態度だと。学校現場はただでさえ忙しいのに評価のために働き方改革に逆行し職場のブラック化が進む。今まで中学校は評価を4つの観点でつけていたが、3つの観点で整理統合される。主体的に学習に取り組む態度がAなら、思考判断や知識技能がCになるはずがないということを言っている。関心意欲態度で知識技能思考判断表現力もつくだろう。それができないのは授業者の指導が悪いのだということになる。中学校でも困っているところ。

<参加者の感想>

Google Formsに寄せられた参加者の感想(掲載可のみ)をご紹介します。

 

*お名前のない感想は匿名希望です。

◆桝山修(教科書ネット21.出版労連京都ユニオン組合員)

 砂川先生のSDG sアイコンを問題意識広げていく始めに選ぶのは刺激的でした。丁度前日教科書ネットの会合で最近の教科書にSDG sの説明が増えて授業がされていると聞いた事もあり,具体的実践がよく分かる報告でした。問題がグローバル化してかつ関連した中で生きている時代に問題意識広げていくのにSDG sアイコンから始めて行く思考は最後に各人が深めながらアイコンを増やしていくのはおもしろいかった。かつてコーヒー豆からトレード貿易を学ぶ授業を聞きました、各人の問題意識を見つめる方法としてまさにディープラーニングなのかなと素人の感想です。

 川西宏和先生の事前プリントを見ながら聞きました。ベテランの話の豊かさの中からも,地理総合に取り組まれる構想(妄想)が伝わりました。失礼だと思いつつ,新たな授業の大変さも思いました。

 私の昔の小学での地理授業の記憶は地理記号や地域学習。中学校では産業と地域の様に貧弱なものです。

 第一学習社にもあったが「グローバル化した社会で地域相互の風習と生活を知らない事から疑念と不信」が戦争を生んだとすれば,地理学習の課題は大きいと思いました。

質問した防災のため住んでいる所のハザードマップなどの授業は,あまりに開発先行の街作りの中で地震列島の素顔を知ってほしいとの年寄りの懸念からでした。

 

答えて頂いた川西先生先生の説明から,デジタル化した地形図の活用の大切さを教えていただき安心もしました。ありがとうございました。

◆中妻雅彦(花園大学)

 「日本のほとんどのSDGsや環境の授業は、自分事にしています。ヨーロッパなどの行動する若者と何が違うのでしょう?」と「「人間と自然環境との相互依存関係」「空間的相互依存作用」という言葉で、地理総合の学習が説明されていましたが、「相互依存関係、相互依存作用」というとらえ方は、地理では常識なのでしょうか?」の2点を質問しました。

 砂川先生の実践報告でも、「自分事」になることで、自分が何をするか、できるかに学習のねらいがあります。SDGs、環境学習は、社会制度の矛盾の学習です。日本の環境学習は「公害学習」から始まりました。環境を汚染した原因(企業や社会的な仕組み)に目が向けられないと「行動する」ことにつながらないという私の問題意識です。

また、国際関係の「相互依存」論は、1970年代にアメリカで発表された論です。それを発表したグループの考え方に、日本の外交政策は影響されています。「従属関係」から「相互依存」にという考え方で、植民地問題に根差す「南北問題」、日本の「侵略」問題、日米安全保障体制などを捉えなおすことのようです。これも、国際関係、歴史の事実からの矛盾よりも、現在のつながりを重視することによって現状肯定になると私は考えています。

 砂川先生の実践で話された中学生は、大変意欲的に考えています。真面目な中学生だから、真剣に考えて、「自分事」で解決できることはないかと探します。このことは素敵です。小中高とすべて「自分事」での解決になっています。

 私は、東京都が作成していた「公害学習、環境学習」の副読本編集を1980年中ごろから90年代までしていました。その後、東京都は、副読本作成をやめてしまいました。この頃から、「自分事」として考えることが広がりました。子どもの発達に合わせて、「自分事」から社会的な問題、社会制度に目を向ける必要があると私は考えています。

 

長々と、私論を書いてしまい申し訳ありません。

◆感想

 SDGsに関連する授業実践では海流の話しをプラスチックゴミと関連させる点がとても興味深く、自分にはない発想で授業づくりに生かしていきたいと思いました。また、主体的に学習に取り組む態度についてのお話から、さまざまなの方がこの観点に悩まれているからこそできるだけ多くの意見に耳を傾けて考えていくべきだと感じました。今後の評価方法等の作成にいかしていきたいと思います。

◆吉田武彦(福知山・三和学園地域講師)

 今回、久しぶりに参加しました。今回、私自身が最も考えを深められたのは、学校で学んだことが、実際に行動に結びつけていくことの難しさについて考えを深められたことかと思います。私自身、公立中学校に勤務しながら、主に高校生段階でのふりそでの少女像をつくる会などで高校生と戦争・平和の学習をすすめてきたことと合わせて、中学校での学習を考えてきたこともあり、思ったことを述べてみます。

 私が中学校での生徒たちにはたらきかけ、会に参加してきていた中学生たちをふりかえってみると、一人で参加してきた生徒は、今までボランティア活動や何らかの学校以外の場での参加があった生徒たちではないかと思います。また、参加した生徒は仲間と一緒に、そして近年では特に楽しい場を求めているかなと思います。そのため、近年の活動は「ふりそでの少女像をつくる会」のホームページにもあるように、担当者が変わったことが大きいですが、食べて楽しく学んでという要素を強めてきました。

 やはり、自分のまわりの家庭や地域に、地域社会や政治に関わっている人がいたり、そういう地域・社会との関わりの深い学校であったりすることが、会への活動参加にもつながっていたと思います。

 ふりそでの少女像をつくる取組を始めた綾部の中学生は、ヒロシマ修学旅行の取組で綾部市民からも折り鶴を集め、保護者メッセージも自主的に書いてもらいましたが、六万羽の折り鶴が届き、保護者メッセージは全校生徒世帯数の8分の1に達し、担当生徒はそれを全文10号分のニュースにして載せました。自分たちが学校で学び地域に働きかけたことが、地域から形となって返ってくることが、地域社会への信頼となり、生徒が次の行動につないでいったと思います。そのヒロシマ修学旅行では広島原爆で犠牲になった子どもたちや多くの市民に関わる慰霊碑や平和の像を42ヶ所、42班分用意し、事前学習をさせ現地を訪れる取組をしましたが、その二ヶ月後の夏休みからふりそでの少女像建立の取組、募金活動などが始まったのです。

 私はその後、楽学塾(東綾中学校)、川口ふるさと塾(川口中学校)と地域を学ぶ中高校生のグループを立ち上げましたが、地域社会に関われる何か地域の取組が大切だと思っています。そういうものがあれば、枠があり制約がかかりやすい学校から、外の自由な世界へ出ていきやすいのではないか。又、内と外から学校という堅い卵の殻を少しずつ割っていくことができるのではないか。少し論理に飛躍があるかもしれませんが、どうでしょうか。

 

 綾部市は広島・長崎よりも先に世界連邦都市宣言をした都市です。その都市の市民の平和への基盤のもとにふりそでの少女像は建立できたと思っています。その基盤は今もあると思っています。川西先生がレポーターで、なつかしい話でのまとめになりました。

◆「わたし」とつながる地理授業 町田研一(立命館宇治中学校高等学校)

 今だから正直に言いましょう。私は地理が嫌いでした。大学の教職課程では、地理系の授業に身が入らず、単位がなかなか取得できませんでした。「どうせ僕は歴史の教師になるんだし・・・」と。

 ところが、神はそんな甘い私を見逃さなかった。前任校勤務5年目の年に、諸事情あってセンター対策の地理Bを担当することになってしまったのです。それまで地理Aは担当したことがあるものの、それとは比較にならないほどの知識量。しかも、センター試験で高い得点を生徒に取らせてあげられるような授業をしなくてはならないプレッシャー。何から手をつけていいかわからず、まずはセンター試験の過去問を解いて、予備校講師の書いた参考書を読むことから始めました。ところが、そんな地理嫌いの私が悪戦苦闘の授業を2年間続けていくうちに、地理の魅力にどっぷりはまってしまったのです。様々な手がかりをもとに論理だてて謎解きをしていくおもしろさ。この時の経験が、私の授業やテスト問題を変えてくれました。

 私事から入って恐縮でしたが、今回の報告はそんな地理の魅力に気づいた頃を思い出させるぐらい魅力的な地理の授業実践報告2本でした。(前置き長くて、すいません・・・)

 砂川先生は、生徒にとって身近な食べ物であるバナナをテーマにして、熱帯地方の生活について学ぶようにしているのですが、その中で、普段買い物をしているスーパーでどんなバナナが売られているか調べさせ、そこからどうやらフィリピン産が多いことに気づかせ、さらにDVDでフィリピンバナナが農民を農薬被害の危険にさらしていることを鑑賞して、最後にフィリピン人をそのような危険にさらしているのは日本人が安くて見た目のきれいなバナナを嗜好するためだということにつなげていることがとても印象的でした。このように最初に自分事から入り、最後に自分事として帰ってくる授業は生徒にとってもたいへん興味深いものになるでしょう。しかも、今流行のSDGsを絡めているので、感服しました。

 川西先生は、再来年に実施する「地理総合」についての構想を報告してくださいました。「まだ構想にもならない、妄想ですよ~。」とおっしゃっていましたが、ユネスコ憲章と地理的な見方考え方の5つの視点をまず定めておられたのはさすがだと思いました。新しい科目を立ち上げる際には、やはりそういう軸をしっかり据えなければならないことを学びました。

 そして、砂川先生同様、京都の学校にとって身近な観光の風景(市バスの案内板)を入り口にして、京都の観光問題(観光のグローバル化やオーバーツーリズムなど)から世界の観光問題へ発展させていくプランは、たいへん魅力的なものでした。社会科の授業は、生徒を引き付ける身近な教材(川西先生のプランでは、市バスの観光案内版)をいかに見つけてくるかというところが大事です。そのためにも、教科書や資料集、ネットだけでなく、歴史の教員も身近な様々な場所へ直に行ったり、他の教員と交流してネタを仕入れることがとても大事だと感じました。

 

改めて地理のおもしろさを教えていただき、自分の授業をまた見直したくなった例会でした。