京都歴教協 2020年2月例会

~シリーズ~

このテーマでどんな授業をしましたか?、どんな授業がしてみたいですか?

第2回テーマ「憲法」

テーマに合わせたミニレポートを持ち寄る形式の例会の第2回目でした。今回も、5人の方がレポートを出し
ていただき、 予定を1時間も超える盛会となりました。吉田武彦さんも、当日持ち込みでレポートを用意して来
て頂いたのですが、帰りの列車の時刻に間に合わなくなるので報告をせずに帰られました。せっかく用意して頂
いたのに、申し訳ありませんでした。
このようにテーマを定めてミニレポートを持ち寄る形式の例会も、これからも時々設定したら参加しやすくてよいのかもしれません。「こんなテーマがよい」というご意見がありましたら事務局員または投稿サイトへ是
非お寄せ下さい。今回の参加者は12名、若い方2人に報告していただけたのも よかった ことでした。

☆トヨタ過労死問題・生活保護の問題を考える・1本のバナナから見えること☆

報告:辻 健司さん(中学校)

「夫の頑張りを認めて~トヨタ過労死問題が問いかけたこと~」は、歴教協愛知大会の地域に学ぶ集い」で取材したことをもとに学習プリントにまとめられた報告です。夫の過労死の認定と労災保険の支給をもとめて内野博子さんが裁判に訴えた問題を取り上げています。トヨタや国を相手にするという困難な訴訟に踏み切った内野さんの思いや、その過程で、労災保険を不支給とした豊田労働基準監督署の署長らがトヨタ関連企業からゴルフ接待を受けていた事実などが明らかになり、名古屋地裁で過労死が認定されたこと、トヨタのQC 活動に残業代が払われることになったことなどが載せられています。
「アフガニスタンに必要なもの~どうしたらテロをなくせるのか~」は、ペシャワール会と中村哲さんお活動を教材化したものです。医療活動から井戸や用水路を造り、現地の人たちの自立を目指した活動について考えさせます。
「生活保護の制度について考える」は、母親が生活保護を受給していたことでバッシングを受けた吉本芸人の事例をとりあげ、生活保護制度について考えさせる授業のプリントです。GDP に占める日本の生活保護支給額が他の「先進国」と比べて格段に低いことが分かるグラフなどもあります。
「一本のばななからどんなことが見えてくるかな?」は、バナナ農園で働くフィリピンの人たちに眼を向けた授業プリントです。

☆アイヌを出発点にした学び☆

報告:濵野優貴さん(中学校)

北海道から世界にどんなことが訴えられるのか?という問題意識から出発した実践です。1922 年にアイヌの口承文学を初めて文字にして『アイヌ神謡集』として出版した知里幸恵の活動を取り上げています。「なぜ幸恵は『アイヌ神謡集』出版しようとしたのだろうか?」の問いかけがされています。
また、「1922 年」という年に着目し、大正デモクラシーの時期だったということから歴史的分野での学びともつなげて考えるように考えられています。次に、「文様でつながる世界」のタイトルで、アイヌ文様を取り上げています。生徒たちに独自のアイヌ文様を作らせ、アイヌ文様とよく似た図柄が世界中でよく見られることに気づかせていきます。
濵野実践のもう一つの着目点は、1 枚のポートフォリオを使って、学習の前と後で同じ問いに答えさせ生徒の変容を捉えていこうとされていることです。評価のあり方としての問題提起としても大きな意味のある報告でした。

☆日本史の授業で憲法―紙芝居で発表―☆

報告:大島結人さん(高校)

憲法に関する疑問―憲法改正の動きと立憲主義の観点、押しつけ憲法論―に対して、生徒各自が調べ、まとめることによって自分で考える機会を与えることをねらいとして取り組まれた実践です。
4 つの班が「Ⅰ.初期の占領政策」「Ⅱ.民主化政策について」「Ⅲ.政党政治の復活・戦後の市民生活について」「Ⅳ.日本国憲法の制定」のテーマを分担して受け持ち、3時間でまとめて2時間で紙芝居形式で発表するという内容です。紙芝居形式で発表するという方法です。
生徒には、求める5つの力として以下のことが伝えられました。①人任せにせず自分で役割を見つけ、行動する。②多くの情報をインプットし、まとめる力。③他者と協力して一つのものを作り上げる力。④企画・運営力(ここの作業の時間配分・役割分担・構想や具体案の提案)。⑤伝える力。
一定の資料を教師が与えて、それを「鵜呑み」にしてしまうと、卒業してから別の方向の刷り込みがあればそれに流されてしまうだろう。自分たちで調べて考えさせる 授業にしたいという考えで取り組まれた実践でした。

☆政治経済プリントー政治編 平和主義― ☆

報告:庄司春子さん(高校)

憲法の平和主義・自衛隊の誕生・政府の憲法解釈、日本の防衛政策、憲法9条をめぐる裁判についての4枚の
学習プリントを元に報告をしていただきました。基本は穴埋めプリントなのですが、各所に『調べてみよう』『考えてみよう』『争点』を挿入して、生徒たちの主体的な活動を促すプリントになっています。
『調べてみよう 』 では、「日本国憲法の源流は?」「朝鮮戦争が日本・韓国・北朝鮮に与えた影響は?」「集団自衛権の行使容認について、賛成意見と反対意見をそれぞれまとめてみよう」 「この協定(日米地位協定)が、捜査の壁となった最近の事件に、どのようなものがあるだろうか」 「南スーダン“日報問題”とは、どのようなことか」など。
『考えてみよう』「 普天間基地の辺野古への移設について、賛成と反対の理由をまとめ、この問題をどのように解決したらよいか、考えてみよう」「砂川裁判、長沼裁判について、グループで意見交換をしてみよう」
『争点』では、「安保条約と憲法 9 条―安保条約にもとづき駐留している在日米軍が、第 9 条の保持を禁じている“戦力”にあたるかどうか」「自衛隊と憲法 9 条―自衛隊法 121 条は、合憲か違
憲か」「自衛隊のイラク派遣と憲法 9 条―自衛隊のイラク派遣は憲法 9 条に反するかどうか」 など。
生徒たちが、どんな取り組みをして、どんな意見を出したのか興味深いプリントでした。

☆改憲問題についてこんな授業してみました☆

報告:町田研一さん(高校)

高校現代社会の実践です。授業のタイトルは「憲法を変えたい?~改憲問題~」です。 授業の意図として「 憲法 改正 を推進したい安倍首相の発言を生徒たちに検討させることで、改憲問題を自分たちの頭で考える機会にするとともに、メディアリテラシーを身につけさせたい 」ことを挙げておられます。
【安部晋三氏、憲法関連発言集】の中から、8 つの文言を取り上げ、それについて生徒に問いかけています。 例を 1 つ挙げて見ると、「連合国軍総司令部( GHQ の憲法も国際法も全くの素人の人たちが、たった 8 日間で作り上げた代物だ」と言う発言については「 GHQ 民政局の憲法草案作成スタッフ 25 名のうち中心となる運営委員会に所属する4名中名中3名の将校(ケーディス陸軍大佐、ハッシ-海軍中佐、ラウエル陸軍中佐)は軍隊とは関係のないある資格を持っています。その資格とは何でしょうか?」と問いかけています。彼らは、弁護士であり、憲法作成メンバーには他にも元大学教授や政府官僚など知識人を集めていることを生徒は知ります。
他にも「日本国憲法は環境権などの新しい人権に適応適応できていないのか」「自民党が考える日本国の形、理想、未来がどのようなものなのか」「憲法改正は、自民党結党以来の大きな目標、党是なのか」「総選挙で自民党が獲得した絶対得票率はどのくらいだったのか(国民は改憲得した絶対得票率はどのくらいだったのか(国民は改憲4項目に“力強い支持”をしたのか)」などの問いについて生徒自身に調べさせ答えさせています。「教師が教材研究で理解できた過程を生徒にも学ばせていく」といいて生徒自身に調べさせ答えさせています。「教師が教材研究で理解できた過程を生徒にも学ばせていく」という報告者の発言が印象に残った報告でした。

参加者の感想

吉田 武彦さん

「憲法」の授業ということで、歴史、公民の教科書でそのものを説明しているところと思い、当日 持ち込みでプリントを用意しました。しかし、多くの報告は、生存権、平等権など幅広く実践報告がされました。現在の日本国憲法につながる様々な実践が大切だと感じました。ネットで調べ学習をすると、「おしつけ憲法」を調べてくる生徒たちの現状のもとでさん、町田さんの実践は、現在あらわれている安部発言などをもとに、考え調べさせる形でおもしろかったです。
今回、研究大会を三和荘中心におこなわれるのですが、車で 10 分のところに芦田均記念館があります。研究会の前にでも時間に余裕があればおこし下さい。(芦田均記念館の資料を配付しました
研究会、多くの方々の御参加をおまちしています。

庄司 春子さん

憲法学習は奥が深いと改めて感じました。最後に話題になった憲法9 条と安全保障問題を、どう両立させて授業づくりをするか、ということが大きな問題提起として残りました。

町田 研一さん;憲法への多様なアプローチを学んだ

ベテランの辻先生の取り組みは、条文からではなく実際のケースから憲法について考えさせるようなものでした。特に、トヨタの過労死問題とペシャワール会の授業は、ぜひ参考にしたいと思いました。
濵野先生の取り組みは、とても先進的なもので刺激的でした。それは1 枚ポートフォリオを使って、生徒の成長が眼に見えるようにした実践でした。一方で、うまく省力化していかないと教員がつぶれてしまうと感じました。また、取り上げていた知里幸恵さんを軸にして、地理、歴史、公民に広げられそうなので、自分の授業で扱いたいと思いました。
大島先生の紙芝居を作って発表させる取り組みは、知識のアウトプットをさせるのにそんな方法もあったのかと 気づかされました。 ITC 化の進む現在だからこそ、このようなアナログも見直さねばならないかもしれません。