2020年10月例会

今月は、通常通りのクローバーハウスでの例会に ZOOM を使ってのオンライン参加もして頂くという「ハイブリッド例会」となりました。今後は、この形式の例会が続いていきます。今回は会場での参加が7名 、 ZOOM での参加が4名、合計11名の参加でした。

<報告①>コロナ禍のなかで、社会科のあり方を考える~京都市の市街地に暮らす生徒たちと農や村の暮らしを見つめながら~

報告者:辻健司さん(京都市立近衛中学校・非常勤講師)

毎時間のワークシートなどたくさんの資料を提供しての報告でした。全ては紹介できませんので、報告の一部を紹介します。

☆1年歴史「技術の発達と様々な職業」の授業 ☆

ワークシートを活用して前時の復習。 本時のねらい「鎌倉・室町時代において産業と交通はどのように発達したでしょうか~農民たちの工夫について考えてみよう」。

まず、多くの作物を得る工夫として、開墾と農業技術の発達( この中に本時の中心発問につながる人糞尿の利用も含まれる)をつかませる。農業生産力の上昇 手工業の発達と特産品の誕生 交通がさかんになり定期市が開かれるという関係を押えていく(運送業、金乳業、関所などにも触れて)。そして、中心発問につながる問い「なぜ人の糞尿が肥料になるのだろうか?」「どのようにして、人の糞尿を肥料にしたのだろう か?」について、答えさせる。次に中心発問『なぜ、人の糞尿が肥料になると知っていたのだろうか?』 について、生徒1人1人の仮説と班の仮説を書かせ、「糞尿がある所の植物の生育が良いと言うことを縄文時代から知っていた」というまとめにつなげていく。最後に、ヨーロッパの都市での糞尿も扱いにもふれて、1時間の授業を振り返る。授業では、パワーポイントも作って見せるための工夫をしたり、タイマーも使って時間の管理をするなど45分授業で収まるような工夫もされている。

肥溜めは、高齢の参加者にとっては子どもの頃には、あちらこち らで見かけた ものです。人糞尿は貴重な金肥として業者によって買い取られていた事実に、生徒たちはどんな反応をするのでしょうか。

☆2年地理「日本の米作りについて考える」の授業 ☆

生徒からアンケートをとり集計する。アンケート例「あなたは1日に何杯ご飯を食べますか。」 「“ひとめぼれ” 10 kg= 4100 円は高いと思いますか。安いと思いますか」「あなたは、農業をやってみたいですか」「日本の食料自給率は、いまどれくらいだと思いますか」「農家の数は 1960 年以降、どう変化していると思いますか」など。

授業中に、米作りの経験があるか聞いたところ、多くの生徒から「小学校でやった」という意見が出たため、急遽「小学校の時の米作りの思い出」をアンケート項目に追加した。

 

「コロナ の感染がこの先どうなるか不透明な時代です。これからの日本の米作りをどうやって行けばいいと思いますか」の問いについては、グループで交流させる。最後に「今日の授業の感想」を書かせる。

小学校での、米作り体験については小学校の経験のある参加者から意見が出された。近くの田畑を借りて稲を育てたり、バケツで稲を育てたりしている。農作業の全てを体験するのではなく、田植えや稲刈りなどの「いいとこ取り」の体験になっているのが現状。他は農家の人や教職員が作業している。バケツ稲は、農協でセットにしたものを提供してもらえる。実り具合などを実際の農家で作られた 稲 と比較することができる(→農家の技術の素晴らしさに気づく)、夏休みに家に持って 帰ったり、水の中抜きが容易にできる等の意見が出された。

<報告②> 日本史 総合をオンラインで先取る!?

報告者:町田研一さん(立命館宇治高校)

コロナ禍での学校の動きとオンラインで授業をした 日本史総合 「近代化への問い」の授業 について 実演も入れ

て報告されました。

☆コロナ禍での動き ☆

2020 年 3 月 2 日より休校

     オンライン授業を見通して ZOOM を使い 、

     学年でオンライン授業の試運転

    4 月 休校のまま新学期開始

     教員有志による ZOOM 講習会

     生徒も事前に一斉 ZOOM 設定日を設ける(インストール、ログイン名設定など)

    4 月 1 3 日 英数国からオンライン授業開始

    5 月 7 日~ 6 月 3 日 全教科でオンライン授業

     生徒と教員の負担を考慮して 1 コマ 30 分、休憩、60 分で午前中の 3 コマのみ

    6 月8日~ 19 日 生徒登校開始 授業は短縮 40 分

    6 月 22 日 通常授業( 50 分)開始

☆オンライン授業 ☆

2023年度から実施予定の歴史総合を先行実施している。

オンライン授業形式:ZOOM を使った同時双方向授業。

オンライン実施範囲:「 1 .歴史の扉」「と「 2 .近代化と私たち①近代化への問い」の2コマ→1コマ50分を4コマ(1コマ30分)で実施。

授業プリント使った遠隔授業「コロナ禍によって加速する遠隔授業(オンライン授業)は何故出てきたのか」。

導入では、遠隔授業のメリット・デメリットを書かせる。

アクティブラーニングAL について書かれた学習指導要領の公示の一部分を資料として提示し、先ず資料中から AL にあたる語句を探させる。次に「資料も参考にして、日本の教育に AL を導入する理由を考えなさい」も問いに対して、自分の考えと他人の考えを書かせる。

太政官布告「学事奨励ニ関スル被仰出書(学制序文)を資料として提示し、学制導入の理由を読みとらせる。「学制以降日本の教育に一斉授業が導入されたのは何故だろうか?」の問いに対して、自分の考え、他人の考え、答えを書かせる。結びは「一斉授業の終焉は、時代の変化。私たちは今、大きな時代の転換点に立っている!」

生徒のチャットを見ながら授業を進めるのは難しいのではないかという意見や、成績下位の生徒ほど問題が生じたときに対応ができなくて、生徒間の習得の差が広がるという問題点も出された。

【例会の感想】

人の糞尿(下肥)はいつから肥料となったか

田中 仁さん

いつもながら辻先生の授業は、中心的な発問から生徒に仮説を考えさせ、班討論を通じて交流(=仮説を検証)し、再び感想という形で自分の考えをまとめ直すという社会科の定石を踏まえたもので、勉強になります。自分自身の授業をふり返ると史料を読んで考えるということはさせても、仮説を立てて交流する場面はまだ少ないと反省しました。

その中で、今回の「なぜ人の糞尿が肥料になると知っていたのだろうか?」という中心的発問から始まる同志社中での授業を聴きながら、以下のようなことを勝手に連想してしまいました。これは辻先生の授業に対す る直接の感想というわけではありませんが。

確かに、この授業で生徒が考えたように、自分が排泄した所の植物の生育がよいという経験を積むことで糞尿の肥料的価値を知ったということはあるかもしれません。しかし、だからと言って糞尿(下肥)が肥料として古くから意図的・恒常的に利用されたということは言えないようです。一般的に下肥を肥料として使ったことが確認できるのは鎌倉時代以降と言われています。それ以前のことは分かりません(証明されていません)が、あったとしても恒常的なものではなく、日本では下肥が最古の肥料とは言えないよ うです。

それはトイレの歴史をふり返っても納得されるでしょう。つまり、縄文時代のムラの遺跡からはトイレらしき設備はなく、人々は外で用を足していたのだろうと考えられています。福井県の三方五湖に近い鳥浜貝塚などでは湖の底から糞石(便の化石)が発見され、このムラの人々は水辺などで用を足していたことが知られています。水稲農耕が始まり、農業が主要な産業となった弥生時代になると、住居の周辺に下水設備が見られるようになり、これをトイレとしても利用したらしいのですが、水に流してしまうので糞尿は溜まりません。

平安時代の貴族は箱状のオマル(「樋箱」)で用を足し、屋敷に引き込まれている側溝(溝川)に流していたらしいのですが、庶民は『餓鬼草紙』の絵にもみられるように野外(野や裏通りの目立

たぬ場所)で用を足していて、住居にトイレは完備されていませんでした。奈良時代も事情は同じでしょう。都以外の農村部ではどうだったでしょうか?この時代の庶民の住居はようやく竪穴式から平地式に変わっていく時期に当たりますが、住居の内または外にトイレ的な設備が確認されたということは未だ聞いたことがありません。もしそういう事例があるのなら教えて下さい。

各家庭にトイレ(厠=「ボットン便所」、つまり糞尿を貯めておく設備。もっとも「かわや」の語源は川に流す川屋だったという説もあるようです)を設けたことが確認されるのは鎌倉時代から戦国時代にかけてだそうで、特に京都や鎌倉などの都市部で確認されるそうです。こうした厠は農村でも次第に普及していっただろうと思われます。そうなると溜まった糞尿を下肥として利用するようになったのは自然の流れだったでしょう。

江戸時代になると、江戸や大坂・京都などの人家には厠が完備されており、下層庶民の住む裏長屋には共同便所が設けられていまし た。やがて、そこに溜まった糞尿を買い集める業者の仲買組織などもできるようになり、下肥はけっこう高値で取り引きされるようになりました。

つまり下肥は流通機構が整備されるにしたがって干鰯や油粕・〆粕などとともに金で買う「金肥」となった訳です。

日本の肥料の歴史を考えてみると、やはり焼畑農業(縄文時代からあったと考えられています)以来の草木灰や刈敷(落葉や刈取った草を田畑に入れること)が最も早くから利用され、次いで落葉や草を重ねて発酵させた堆肥も作られるようになり、恒常的に利用されるものとしてはこれらが最も古い肥料となったのでしょう。やがて牛馬耕が普及するようになる(平安末~鎌倉時代)と、厩肥(落葉や草に家畜の糞尿を混ぜて発酵させたもの)も利用されるようになり、また厠の普及とともに下肥も恒常的に利用されるようになったはずです。つまり下肥が肥料になったのは草木灰や刈敷・堆肥より新しく、鎌倉・室町時代以降と考えられます。そして江戸時代になると下肥を買い集める業者や流通機構がそれなりに形成され、干鰯や油粕・〆粕などと同じように「金肥」となりました。

下肥の歴史はトイレ(厠)や都市の発達、流通の仕組みの形成などとともに考えなくてはならないのではないでしょうか。ちなみに農業に下肥を使った民族は世界ではそう多くはないようです。

10月例会感想

後藤貴三恵さん

9月例会は zoom のみで、10月例会はクローバーハウスと zoom でのハイブリッドで行われました。居住地が遠い方も、例会の直前・直後に用事がある方も zoom で例会に参加でき、有効な参加形態が可能になったと思いました。

辻さんのレポートは、京都の中でも町なかに住む中学生と農業や暮らしをみつめる学習をしたもので、米作りを中心にレポートされましたが、アンケートもされて細やかに指導されている様子がよくわかりました。バケツで 稲作を体験する取り組みが多くの小学校でなされているそうですが、参加者から、植える時と稲刈りの時しか児童が関わらず、夏の時期の草取りや稲刈りの前の水抜きなどはしていないという小学校の米づくりの実態の問題点も指摘されました。かつての農業のやり方や工夫、苦労などを学んだ上で、コロナ禍において、食料問題を考え、未来を考える展開になっているのが辻さんらしい授業だなぁと思いました。

町田さんのレポートは、4・5月の休校時の zoom を使っての授業実践報告で、実際の授業のタイムテーブル通りに zoom で授業をされたという のが、本当にたいへんだったのだろうなと感じました。4・5月の休校中、私学の高校でも様々な形態で授業がされていましたが、自宅にWiFiの環境が整備されているかどうか、家族共有のパソコンなのか、自分専用のパソコンなのかによってもそれが可能になるかどうかが変わります。通学しなくてよいとなると生活リズムが崩れてしまう生徒もいて、担任としても生徒の実態を把握したりケアしたりと心配りもたいへんだったことと察します。おつかれさまでした。