上の写真;北大路橋付近から鴨川西岸を見る

9月例会 埼玉大会報告&授業実践交流会

9月21日(土)15:00~17:30

同志社大学今出川キャンパス・クローバーハウス2階

今回は、新学習指導要領の実施が迫る中で、どのような授業をしていくのか、授業案や授業実践の交流会をやってみようという新しい試みをしました。「参加者される方は、授業案、授業実践を4用紙1枚に簡単にまとめていただいて、ご持参ください」という呼びかけが前もってありました。参加者は10人とやや少なめでしたが、8本ものレポートがあり、報告後の討論も若手とベテランがワイワイととても率直な意見交換をしました。

第1部;自己紹介&埼玉大会参加報告

若手もベテランも、楽しく近況報告や参加報告をしました。

第2部;授業実践の交流会

1人7分で報告し、そのあと時間をとって意見交換をしました。これがなかなか面白かった!

埼玉大会 小学校6年分科会から

羽田純一さん(元小学校教員)

大会の報告です。小6分科会では7本のレポートがありました。そのうち2つに焦点をしぼって報告をします。1つは、韓国から参加された安貞恩先生の「地図で見る三・一運動」。独立宣言書は内容が難しく、授業で活用されてこなかったが、100周年事業の一環としてやさしい宣言書が作られたので、授業を行ってみた実践でした。まず読んで内容を理解。次に独立活動家の気持ちになって3つの約束をつくる作業を展開。そして、宣言書で重要だと考える価値を一つに単語であらわし表現させるという授業でした。
2つ目は、大野裕一先生(東京・和光小)の「子どもの生活から考えた憲法の学習」。知っているけど読んだことがないというのが子どもの実態。また立憲主義の考え方は子どもの中にないので、紙芝居を教材にされた(「王様をしばる法~憲法のはじまり」明日の自由を守る若手弁護士の会)。そして自分の生活と憲法をつなげて考えさせ、一句詠ませた。「辺野古基地 みんなで反対 第九条」「土日はね だいたいゲーム たのしいな」など。

「『日本国紀』をどう読むか」の報告を終えて

家長知史さん(元高校教員)

「世界」の分科会で報告しました。参加は30人ほどでしたが、百田尚樹著の『日本国紀』を読んだ人は2人しかいませんでした。けれど、気になっている方はおられました。65万部を売っているという話題の本なので、やはりこの落差は大きいと思っています。山崎雅弘著『歴史戦と思想戦-歴史問題の読み解き方』(集英社新書)で、「専門家が傍観すれば、一般の人々は『専門家が批判も否定もしないということは一定の信憑性がある事実なのか』と思い、結果としてそれを信じる人の数が徐々に増加していくとこになります」と重要な指摘がされています。そこで8月に、私と平井さんと本庄さんで『「日本国紀」をファクトチェック~史実をどう歪めているか』を出しました。これがAmazonで紹介されたところ、いわゆるネトウヨから攻撃されています。その経過は、今日持ってきました資料で見て下さい。その後、反対する意見も同調する意見も続いています。

「教えない授業!」

稲垣裕史さん(大学教員)

授業分科会で報告しました。この分科会では3つの柱がありました。①子どもたちが考え、活動する授業をつくろう。②子どもたちに寄りそうための教材・方法を考えよう。③真の学びをめざす授業とは?-の3つです。全体としては、単に教科書をなぞるような知識注入型の授業ではなくて、子ども(学習者)がどうやって主体的に学ぶかを考えようという分科会でした。僕の授業は、問いを立てるところから結論まで、すべて授業者が行う授業です。ベテランの方々は動揺されましたが、若手の先生方からは好意的に評価されました。

支援学校での学びから高校での授業作り

小林彬さん(公立高校教員)

前任校は特別支援学校でしたが、そこでは①「学ばせないといけない」ではなく、「学びたいことを学べる」こと、また②本人の力に合わせた指導に主眼を置いていた。だから買い物のしかたとか銀行口座の作り方を学ばせました。指導の根底には「教育は愛」とふまえることが重要だと学びました。そして府立大江高校に転勤して3年目。すべての授業はプリントにし、テストは記号で選ぶ問題を多くしたり、何か達成したときに「ご褒美」を与えたりしましたが、意欲のある生徒からは「ナメてるんですか」といわれました。ALもいろいろやってみたが、模擬議会として「大江町の課題は何だろう」と発問したときは飛びついてこなかったが、「すき屋と吉野屋、どちらを学食にしたらうれしいか」と聞いたらとても積極的に取り組みました。身近な問題で学ぶ実感がある設定が大事だと思いました。本校でもICTの導入が進んでいます。導入で使う資料をスクリーンに投影し、板書内容はパワポで映し、やりやすくなってきた。自分が学んできたことをどう生かすか、この授業ならこれがタイムリーとか、ぜひ教えてほしいと思います。

「公共の扉」に向けて~生命倫理の授業実践

板倉威一郎さん(滋賀・高校教員)

学習指導要領や解説を読んでみました。有志で「公共」検討会を立ち上げ、毎月1回10人くらいで学習しています。多忙な先生でも、こういう授業ができる教材作りを目標にしてやっています。『「公共」の授業を創る』(橋本康弘著、明治図書)も読み、話も聞きました。「公共」では、体系的な順番を設けて学ぶのではなく、まず問題が提示されその問題について考えて解決していく-ALが全時間で行われるのではなく、そのプロセスを積み重ねていく授業が求められます。1時間ごとの授業ではなく、単元構成をどうしていくのかが問われます。憲法も、関係のあるところで取り上げることになります。だからボーッとしていると憲法に触れないで授業が進んでしまう危険性がある一方で、問題と関連した扱い方ができるので可能性があるともいえます。
今回「高校」の分科会で報告したのは、「公共の扉」を意識して生命倫理を考えてみようと取り組んだ授業(2時間)す。3人の教員で、小林亜津子著『はじめて学ぶ生命倫理』を共通教材にしました。さらに私は萩尾望都さんの短編マンガ『半神』を教材にしました。結合双生児の分離手術という重いテーマです。班で、賛成反対の意見を出させ、それをもとに意見を書かせました。環境問題以上に、生命倫理の問題は人間の見方に深く切り込める教材だったと思っています。

批判的思考力を育てる~世論とマスメディア

若い先生(中学校・講師)

現代政治の単元の5時間目に「マスメディアと世論」というテーマで授業をしました。情報を鵜呑みにせず批判的にとらえようとするようになってほしいというねらいです。教科書に載っている2社の記事(エネルギー問題に関わる記事)を比べさせ、同じな内容を扱う記事でもメディアによって異なることに気づかせました。そのあとクラス内で消費税についてのアンケートをやりました。第1のグループでは、単純に消費税の賛否を聞きました(賛3・反7)。第2のグループには、将来に不安があるかを聞いてから消費税の賛否を聞きました(賛1・反10)。第3のグループは、あなたが政府に求める公共事業は何かと聞き、教育や保育などに○をつける設問をした上で、消費税の賛否を聞きました(賛5・反7)。生徒たちは、同じ質問をされているのに、先立つ質問に影響されて賛否が変わってくるということに気づきました。つまり世論調査が行われたとき、もしかしたらメディアが思っているように誘導されているかも知れないと気づかせたかったのです。コメントシートには、「情報を批判的に見て疑ってみることが大事」と書いてくれたが、「メディアは民衆をだまそうとしている」というところだけを印象に残している生徒もいたので、授業の前半でメディアの役割を考えさせてもよかったと反省しています。

「調べて知って、考える授業」

片桐康志さん(中学校教員)

8月の山城社会科研究会で報告したものを持ってきました。アクティブラーニングには魅力もありますが、すべてを相対化し何でも話し合えばいいような感じになってしまう危険性もあると思います。これまで、教材研究を大事にしてきました。実物教材や地域教材などです。そして教えて考えさせる授業をねらって、ワークシートを使った授業をしています。設問は、基本問題と発展問題で構成しています。基本問題は、教科書を使って自分で調べて解答を記入し、低学力の生徒にも配慮しわかりやすい問題としています。発展問題は、さらに調べ考える問題ですが、やはり学び合いによる学習が大事だと感じています。机をいっしょにして4人でぼそぼそ言いながら、わからないときはわからない者から発信することが主体的な学習になり、対話的な学習にもなるということです。私自身研修を受けたことですが、その先生はレクチャーのあとテストをしました。そのテストにレクチャーしていないことをわざと出していました。私はわからなかったので、まわりにいた人に「この単位、何という単位ですか?」と聞きました。自分から聞いて教えてもらって対話しながら問題を解きました。そうすると、個人の力がつかないのではないかと誤解していましたが、私自身非常に理解が高まったという経験をしました。

「徴用工問題をどう考えるか」

辻健司さん(元中学校教員)

3つ作ってきました。まず、「『いだてん』はほかにもいた」というワークシートです。これは、以前の勤務校での人権学習でやっていた日の丸抹消事件を、大河「いだてん」にひっかけて作ってみたものです。大河ではいまちょうどベルリンオリンピックをやっています。この時のマラソン優勝者が孫基禎さん、3位が南昇龍さんです。2人とも朝鮮半島出身の選手ですが、大河ではどう扱うのかなと思っていたら、ちゃんと出てきました。授業で使えます。いま日韓関係がグチャグチャになっています。こういう時こそ、社会科の出番だと思います。今回の直接のきっかけは、徴用工問題の判決が韓国の最高裁で出たことにあります。「ノート」というのは自分のために作ったもので、それをふまえてワークシート「徴用工問題を考えてみよう」を作ってきましたが、結論からいうと中学校で徴用工問題をやるのは難しいです。けど、子どもらは問題意識は持っているので、やったらついてくると思います。深い学習ができると思います。ワークシート見て下さい。まず判決のポイント、「『徴用工として日本で強制的に働かされた』として、韓国人4人が新日鉄住金に損害賠償を求めた裁判で、賠償を命じる判決を言い渡した」をあげました。これを読んで、わかりにくいところをあげようといいます。「徴用工って何?」「住金は何をしたの?」「損害賠償って?」「何で韓国で裁判しているの?」など、きっと出てきます。ここは解説しないといけません。先日7月28日毎日放送の「映像‘19」で「ある徴用工の手記より」というすぐれたドキュメンタリーがありましたが、そこからも資料を使わせてもらいましたが、証言が必要です。3ページに事例を載せました。【例;1942年7月動員】日本人警官2名と面事務所(村役場)の役人がいっしょにやってきて連行していきました。すでに15名の青年が連行されていました。行きたくないと拒否すると、「おまえらが行かなければ親兄弟を皆殺しにするぞ」と脅しました。(『朝鮮人強制連行調査の記録』柏書房より)。動員には、時期によって募集と官斡旋と徴用がありますが、この例は法的には官斡旋の時期です。しかし明らかに国家権力による徴用です。次に、徴用とはどんな仕事をさせられたのか、これをわかりやすく説明しないといけません。つまり炭鉱夫です。本当は調べさせたらいいのですが、そんな時間ありません。そこでこちらで用意してシートに載せました。5ページの写真です(炭鉱夫としての研修が終わったあとの記念写真)。「何か気がつくことない?」と聞きます。4人グループでワイワイさせたらいいと思います。みんな丸坊主の少年たちです。まだこのあと展開が続きまして、最後に「どうしたらいいと考えますか」と話し合わせたいのです。2時間はかかる実践になるかと思います。

「日本国憲法の成り立ちを考えさせる」

中谷臣さん(高校教員)

授業で使っているプリントを持ってきました。これは十字軍を扱う授業で、ローマ教皇がやらせた戦争で200年も続きました。順番に授業をして、下の方に9条を載せ、自民党の改憲案もセットで紹介しています。世界史のプリントなのですが、必ずどこかに憲法を入れます。それぞれの時期のテーマに関連した憲法を載せ、そこへ自民党の改憲案も入れます。自民党が何を考えているのかわかるようにして、そしてどっちを選びますかと問います。
十字軍は、教皇という宗教的な権威がやらせたものですが、戦前は天皇という権威が許可をしてはじめて戦争を始めている、そういうことを反省して日本国憲法では前文で平和主義と民主主義を訴えました。そして1条から8条で天皇に関することが書いてあり、次に9条がいきなり出てきます。9条を提案したのは誰でしょうか。幣原喜重郎です。マッカーサーが生前そういうことを答えています。戦争しないとか武器を持たないとか、マッカーサー自身は軍人として承諾できないことでしたが、理念としては感心していたのです。当時の状況としては天皇を戦犯として裁判にかけるかどうかという動きもあり、また憲法の制定も早くしないといけないという緊急事態であったので、前文と天皇と9条がセットで出てくるというおかしな形になったのです。後で作った法律が前の法律より有効になるという面があるので、自民党の9条改憲案で行くと結局戦争をしてもいいことになってしまいます。高校生はいずれ国民投票で改憲の賛否を問われることになるので、説明しないといけないと思っています。

意見交換

稲垣さん(大学教員)・司会

報告を受けて、どう認識しているかということよりも、歴史総合・地理総合をどう作っていくか、どんなことで悩んでいてどんなふうに解決していけばよいかということを議論したい。小林さんから問題提起をお願いします。

小林さん(高校教員)

教科書にない知識を持ってくる、それがはたして深い学びになるのかな。教科書の内容でやるというところを順守せずにやると、先生のイデオロギーにそった内容になってしまわないか。教科書にない知識を持ってくるときに重視すべきことはどういうことか。徴用工問題とかも教科書にまったくなくて、そこに先生としてのイデオロギーが入らないかという恐れがある。それをどういうふうに防ぎながら、ほかの知識を持ってきたらいいのか。

中谷さん(高校教員)

教科書にちょろっと書いてあります。「戦争のために日本の男性が少なくなって朝鮮から強制的に労働者を連れてきた」と書いてあります。けれどもどういうふうに働いていたのかとか、どういうふうに連れてきたのかとか一切書いてない。教科書の文章そのものが平坦というか中身のないものなので、どうしたってわかってもらうためには資料というか興味を持てるものを持ってこないといけない。だから教科書って基本的に説明不足です。イデオロギーどうこういう以前に、読んでも何言っているのかはっきりしないような文言が教科書です。背景とか資料とか持ってくるのが当たり前なのです。

小林さん

その当たり前が持って行き方によって異なる…

中谷さん

それはしょうがない、その先生によって…

小林さん

その先生の力によって成り立つものとしていいのか…?

後藤さん(高校教員)

特に時事問題となると、教科書に載っていないので、そういう場合は新聞を何紙か比べて考えさせればいいかなという気がします。

田中さん(高校教員)

教科書というのは、ページ数に限りがあって個々の問題については説明不足になることは最初から決まっています。予定されています。そこをどう、いろんな教材を持ってきて補うかっていうのが現場の教育の役割なのです。ただ持ってくるときに、あんまりイデオロギーを持ちこんじゃいけないと足かせに考えない方がいいんじゃないかと僕は思っています。イデオロギーと言えば大げさだけど、自分の考えで有効な教材を持ってくるわけですね。それは自分の考え、現場の教師の考えですよね。それはイデオロギーにつながるかもしれないけれども、ただ絶対イデオロギーを持ち込んじゃいけないと考えてしまうと、何もできなくなります。だから社会科の授業では、イデオロギーを持ち込まないということは不可能です。ただ国民的に世論が分かれるところは、自分の考えを押しつけない、あなた方はどう考えますかということです。

板倉さん(高校教員)

僕、ちょっと違う考え方してます。やっぱり高校にいて、これ時間が決まっているのです.共通テストのことも現実問題としておこってきます。あるいは生徒の理解とかの問題もあります。そこで一つ思うのは、例えば徴用問題とかも生徒が調べて考えるような力をこちらが着けさせたらいいではないか、という考え方を持っています。徴用工の問題もきちんと向き合って丹念に授業するというような時間がとれないケースも現実的には非常に多い。だからそれができるような生徒にするために考えていかないといけません。特に次の指導要領の「公共」では、これまでのような政治史とか経済史がカットされています。歴史を切って題材から考えないといけない。そうなってくるとより一層生徒が考えられる力をつけるということを目標にやっていかないといけないと思います。

辻さん(元中学校教員)

質問ですが、イデオロギーって何なんですか。

小林さん

僕の場合で言うと、共産党によった考え方、自民党とかによった考え方、それに近いなとほかの人が感じてしまうような考え方とかです。あと自分の価値観、どちらが正しいとか正しくないとかの価値観を伝えることかなと思います。

辻さん

このワークシート、そういうふうに感じますか?

小林さん

感じないですが、あまり自分の知らないことがたくさんあるので、それを伝えたいんだなと思います。僕の知らないことをていねいに教えてくれはるものなんだなという認識です。

辻さん

そこで意見です。歴史学習で、できたらしたいなと思っているのは、その歴史的な事象がおこったそばへ生徒を連れて行くような、そんな授業をしたいなと思っています。教科書の文章はそうじゃないから、具体的な場面に生徒を導こうと思ったら、教科書にないような資料を提示しないといけないとか調べさせないといけないとか、そういうことがでてきます。実際に、徴用の現場でどんな仕事をしていたのか、ということは炭鉱の中の仕事ぶりを紹介しないといけない。そこは教科書に書いていないけれど、それは特定の政党の考え方と全然関係ないと思います。もう一点、私が気にしているのは、公平公正でありたいと思っています。けれども中立であろうとは思いません。中立というのは真ん中。AとBの真ん中が中立です。ところがどちらかがさらにぐっと向こうへ行けば、中立も引っぱられます。それは具合悪いと思っているのです。だけど、公平公正っというのも難しい。現在起こっている問題がメディアの関係もあり、一部分しか伝えられていないと感じて、それが社会科教員として授業を通じて、伝えられている情報が一部であってこういうこともあるよと提示し、全体としてどう考えるかと。しかし、そうして出てきた生徒たちの考えはいろんなものが出てくるし、それを序列をつけて評価をしようとは思わないです。

小林さん

評価はどうされるのですか?

辻さん

感想や考えを書かせた場合は、その内容でABCはつけません。じゃ何でつけているのか…例えば原発でいうと、私は反原発ですがそれを押しつけはしません。だから「再稼働した方がいい」という答えが返ってきてもOKです。ただ、「別に」「どっちでもいい」とか何も書いていないとか、それはダメです。それはCです。無関心はダメということです。

板倉さん

今の意見に対して、僕やったら違います。内容を見ます。何が内容かというと、例えば資料文をふまえて書いているとかです。だから賛成とか反対とかではないです。実際に自分だって、強制連行とか教えてもらったことはないです。正直なところ、そんなことがなくても自立した学習者になれば最終的にいいんじゃないかなと思っています。もちろん時間が潤沢にあってそのことを勉強できる条件があればされたらいいと思うんですが、普通の公立高校とか公立中学校とかはそこまで時間がありません。だから自立した学習者になって、その子が自分で判断できるようにさえなれば、その子が何党を支持しようがこっちの知ったことではない。そういうスタンスでやってます。

中学校の若い先生

僕も価値を注入するのは絶対にいけないと思っているのですが、でも生徒にとって考える材料がないと意見を持てなくなるので、それは持たせるようにこちらから視点を与えて価値を判断させていくのは、中学校の教師として1年2年3年と認識を深めさせていきたいと考えています。それでその価値を認識するときの一つの軸として提示するのは何かというと、日本国憲法だと思います。憲法の価値を認識できるような授業は、公教育としてやっていくだろうなと自分としては思って授業してます。

中谷さん

歴史の場合、価値について賛成反対いろいろありますが、一番基本的なことは資料です。第一次資料です。それを読んでどう判断するかということが基本です。これ図書館から借りてきたばっかりなのですが、『戦時外国人強制連行関係資料集』(かばんから広辞苑のような分厚い本を取り出す、一同「お、おー」「すごいな」とびっくり)という本です。ここに朝鮮人労働者の名前や給料が載っています。これが第一次資料です。細かく書いてあります。本当にあったんだとわかるんです。

辻さん

「元徴用工の発言は信用できない」という人がいますよね、世の中には。そこで、生徒向けのワークシートの3ページの下です。これはテレビの番組で紹介されていたのですが、1944年7月内務省の嘱託職員が朝鮮に出張したときの報告書の一部なのです。何と書いてあるかというと、「徴用は別として、その他いかなる方式によるも出動はまったく拉致同様な状態である。それはしかし事前においてこれを知らせれば、彼らは逃亡するからである。そこで夜襲、誘い出し、その他各種方策を講じて、人質的略奪の事例が多くなるのである。」ということを政府側の役人が出張報告書として書いている文章です。国家権力による強制的な動員だったことがはっきりします。そして付け加えますと、さっき評価の問題でずいぶん荒っぽいことをいいましたが、ABCと分けた場合のAとBの違いは何かということですが、板倉先生が言わはったことと同じだと思うのですが、資料に基づいて意見を述べるとか、他者の意見を聞いて自分の意見をさらに組み立てようとするとか、新しい事実を知ってもう一回考え直そうとするとか、そういう姿勢が出てきているような感想については評価を上げていけばよいと考えます。

羽田さん(元小学校教員)

初めに出てきた、教科書に載っていないことを教えるはどうなのかということについてですが、結局子どもたちが学んで「なぜ」という疑問を持って追究していく、その中で深まっていくのだと思います。イデオロギーの問題も出ましたが、気をつけていかないといけないのは、学校で、教育実践で、教師自身が自粛してしまわないかということです。特に政治的な対立があるような問題は扱わないでおこうというような形になってしまうことが一番問題なのではないか。取り上げ方で、子どもたちを恣意的に引っ張っていくようなやり方で資料を出したりしないように配慮しなければなりませんけどね。けれども、対立するからといって必ず真逆の意見を出さないといけないというのはおかしい。小学校の教師としてはそんなふうに思います。

片桐さん(中学校教員)

忙しくてすべての事実を確認することができないし、だからどうしたらいいだろうかというのが現場の先生方の一番の悩みではないかな。いろんな資料にあたって自分で確信を持てればいいんですがなかなかそうはいかないので、ある程度合意されたものを基準にされたらいいのではと思います。それは、日本国憲法であったり国連憲章であったり、最近ではSDGsであるとか国会で提示されているものとかを根拠にしながら、事実を見ていく視点を作っていかれてもいいかなと思います。山城社会科研究会で活躍されている橋本先生は30歳くらいの先生ですが、SDGsの視点で地理を作る、歴史もできないかと模索をしています。本校(田辺中)ではSDGsを軸に総合学習や教科研究を作り直していくというふうにいま歩み出しています。今年の夏の校内研修でも、社会・数学・技術・英語をSDGsの視点でどのように教えていくかという感じでやっています。若い先生が実践報告をしてくださった。新学習指導要領が始まる年に向けていま準備をしていますが、そういう合意されているものをもとにしながら、ただその解釈はいろいろあるわけですが。一番授業で大事なのは、授業の目標をどう立てるか、例えば辻先生のでしたら徴用工の歴史的事実を正しく知って、及び日韓の条約の含めた事実を正しく知った上で、現在の徴用工問題をどのように解決していったらよいかという思考判断表現のところを出したはるだと思います。知識理解及び資料を調べる力、考える力を出して、それらを目標として、それに合わせた教材を提示していると見えます。だから目標をしっかり吟味されたらいいのではと思います。

家長さん

僕も35年間高校で世界史を教えてきて、教科書も使いましたけど、どちらかといえば教科書以外のそれこそ映像であるとか映画であるとかふんだんに積極的に主体的にセレクトして使って組み込んでやってきました。そういう点では小林さんの疑問からすると何かあぶないことをやっているのではと疑問に思うような授業のあり方だったのかなと思いながら聞いていました。イデオロギーが影響してくるということではなく、自分がどんな授業を作っていきたいかということを考えて、具体的な授業作りをしてきました。例えば、第一次世界大戦の学習をするときに、戦争に行く兵士たちはどんななかで戦争に行ったのか、若者たちはどんな状況に置かれていたのか、戦場で何を思ったのか、そういったことを、たまに教科書に資料として載ることもあるけれどあんまりないです。それを具体的に、兵士になる同じような年齢の高校生たちに少しでも実感を持って受け止めて考えて行くためには、例えば劇映画の「西部戦線異状なし」の一部を持ってきて見せることで問題提起にすることができました。ということで、ある事象について何かを具体的に考えさせていきたい時に実感を持って考えさせたい時に、単に教科書で一律的に同じようなもので扱うのではなく、授業者がいろんな資料、それは文学作品であるかも知れないし映画かも知れないしドキュメンタリーかも知れない、そんなんは多様に自分のアンテナをはりめぐらせて探していく。それは当たり前。それを抜きにして、教師が授業を教科書だけにもとづいてやるのは非常に面白くないし幅がないし、何より生徒にとってどうなんだろうなと僕は思います。生徒にとっては、少しでも提示される問題や事象について理解ができたり考えたりすることができやすい教材をこちらの方が、公正かどうかも意識しながら探り出してきて、そしてそれを時間を考えながらどういうふうに授業の中に組み込んでいくかということを一人一人の教師が努めていくということが大事なのではないかなと思います。

後藤さん

例えば映画にしても小説にしても、何らかのメッセージ性があると思うのです。私たちだったら入試問題を作るのですが、入試問題の中にも、中学生にこういうこと考えてほしいなというメッセージ性をちょっと入れて作ることもあります。生徒にこういうことをわかってほしいなとか知って欲しいとかというメッセージを入れるということはいいと思います。ただそれは押しつけであったり、こうでなければならないといったみたいになってはならないと思います。

板倉さん

現社の時間で、国際政治と平和主義のところで時間のない中ででしたが、『あとかたの街』(おざわゆき作)というマンガと、瀬谷ルミ子さんの『職業は武装解除』を紹介して読ませました。最近の子は戦争学習とかあんまりしていないので、『あとかたの街』という、おざわさんが母親の体験をもとに描いた漫画で名古屋大空襲の話を紹介しました。

また、『職業は武装解除』では、敵同士を和解させるというとてもたいへんな、武器を捨てさせるというところからしてたいへんなんですが、その現状が分かる一節を紹介しました。考えさせた生徒の意見を手がかりにやりましたが、その中でやっぱり自分の身内の者を殺されたらなんぼ和解しましょうと言ったかてはらわた煮えくりかえると書いている、そんなもん何を言われても納得できないと思うと書いたりする子がいるわけですね。そこで、日本と韓国の関係ってどうなのかと問いかけたのです。徴用工の問題も辻先生のような正面からいっているのとは全く違う切り口なのですが、時間のない中でいろんな切り口で取り上げることは可能なのではないかと思います。考え方の違う3人の先生方と共通教材でテストも共通ですので、誰かの先生がやりにくい授業になるプリントを作ったりしないです。でも自分なりの教材を準備して授業することは可能なのじゃないかなと思います。

司会(稲垣さん)

最後に、中学校の若い先生と小林さんから一言お話ししてください。

中学校の若い先生

羽田先生がさっきおっしゃっていたのですが、正直僕も非常勤で他の先生とペアを組みながらクラスを分けて教えているのですけど、そういうときにこういう授業しますというときにいい顔されないということもあります。やっぱり、保護者からクレームが来たこともあると言われましたし、現場はそういうことも気にしてやらないといけないんだなと働きながら思っています。だけれどもそこで単純に流されずに事実をもとに考えさせるためには、こちらが教材研究をして多様な資料を読み取らせるような実践をやっていかなければならないと思いました。

小林さん

小学校のときに大好きやった先生が電話をかけてきはって「お母さんにかわってくれる?」ってかわったら、どこそこの政党に入れてくれっていう…「あ、先生ってこんな人なんだ」とショックを受けたことがありました。あういうふうな裏切り、僕にとっては裏切りでしたが、そういう思いをさせたくないなと思っています。今日はみなさんの意見を聞く中で、合意されたところから視点を向けていって、そこからイデオロギーまでは行きませんがメッセージを込めた形で自分の意見を伝えていくこともある程度必要かなと思いました。ありがとうございました。